「オズの魔法使い」(ボーム)①

頼りないけど安心を与えられるおじさんでいたい

「オズの魔法使い」(ボーム/河野万里子訳)新潮文庫

竜巻に巻き込まれて
家ごと不思議な世界へ飛ばされた
少女ドロシー。
故郷カンザスに帰るには、
オズの魔法使いの力が
必要なのだという。
彼女はオズの国を目指すが、
その道すがら、
かかし・ブリキのきこり・
臆病ライオンと出会い…。

「名前は知っているけれども
読んだことのない本」がありませんか。
もしかしたら
たくさんあるのではないかと思います。
特に外国の古典的な名作に。
「ロビンソン漂流記」
「トム・ソーヤーの冒険」
「宝島」
「十五少年漂流記」…。

本書もそういう本の一つです。
「ああ、あれでしょ、女の子が、
ライオンとかかしと、ええと、
あと、…、そうだ、
ロボットみたいなやつと一緒に
冒険する話でしょ。」
皆さんそれなりに知ってはいますが、
読んだことがない。
それではいけません。
きちんと読んで、
どこが面白いのか
子どもたちに説明できないと。

昨今の新訳ブームに乗っかったのか、
本作品にもようやく
新訳版が出版されました。
今回取り上げた
河野万里子訳(2012年)だけでなく、
柴田元幸訳(2013年)、
そして次回取り上げる予定の
江國香織訳(2013年)と、
3点も登場しました。
改めて読んでみると、
やっぱり面白いです。

登場人物で私が好きなのは、
実はオズ大王なのです。
東西南北に
それぞれ魔女のいる世界において、
その中心に位置する大魔王が、
実はただのペテン師。
でありながら
何とも憎めない人柄です。
この設定が何とも言えません。

魔法も何もできないので、
かかしが欲する「知恵」、
ブリキのきこりが憧れる「心」、
ライオンが望む「勇気」、
それらはすべて既に持っていると諭し、
それでも納得しないから
適当なものを埋め込んで安心させる。
不安を抱える者の心理を
絶妙に心得ています。

読むたびに思います。
現実の子どもたちも一緒なのです。
自分の中にいろいろなものを
持っているのに気付かない、
気付けないのです。
だから自己肯定感を持てないし、
自己有用感を感じることが
できないのです。

子どもたちには、
それぞれの良さを
しっかり認めてあげられる
大人が必要なのです。
オズ大王のように、
頼りないけれども周囲に
安心を与えることのできる
おじさんでありたいものです。

さて、自分たちには
知恵も心も勇気もあったのだと
気付いた3人は、
物語の終末では大活躍をして
ドロシーと別れます。
自信を持って
独り立ちできたところまで
しっかり描かれているのです。
めでたしめでたし。

この素晴らしい物語を、
中学校1年生に
強く薦めたいと思います。
不安と期待とともに入学する
新入生にぴったりです。
そしてまだ読んだことのない
大人のあなた、
ぜひ読んでください。

(2019.1.24)

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